ケース1 春の兆し Tさん 70代 男性
桜の木の下を通り過ぎる時ふと見上げると、枝の先には小さなふくらみがあり、まだ先と思っていた春が近くに感じられます。厳しい冬を越え、やってくる春。日々関わらせていただく利用者様の姿は、時を待ちながら働いている自然と重なります。一時期寝たきりの状態になったTさんは、その時のことが嘘だったかのように、今日は杖なしでリビングまで歩かれ、奥様の淹れた美味しいコーヒーを召し上がりました。身体の自由がきかず、ご自分で身の回りのことが何もできなかった時、「この人(奥様)に一番迷惑をかけてるんです。どんなに大変でも、この人は手を抜かないんですよね・・・。」と大粒の涙をこぼされました。言葉に込められた色々なお気持ちを感じると、胸がつまる想いでした。Tさんと奥様にとり、困難の時を乗り越えての今。コーヒーをお飲みになる穏やかな表情に安堵し、自然と笑みが生まれます。皆様とお会いする中で、ふとした時にお互い心がぽっと明るくなったり、力が湧いたりする瞬間瞬間は、とても豊かなときと感じます。ありがとうございます。
ケース2 一筋の涙… Oさん 60代 女性
難病で呼吸器を使用しているOさん。おつきあいは丸3年となります。最近、病状が進み、血圧が低めで反応も鈍い日が増えました。わずかに頷くか頷かないか。YESかNOかわかりにくい事がほとんどです。ある日も、ご挨拶をしても反応がなく深く眠っているようでした。お声をかけながら、お顔からお体を拭いても、お体を左右に動かしたりしてもピクリともしません。歯磨きをする段になり、お体を起こすと目覚めたようで、何とか行う事ができました。こうして一通りケアが終わると、毎月スタッフ3人で発行している“NPOいのち通信“を読むことにしています。Oさんが、ご家族と好きな歌手の次に反応してくださる“NPOいのち通信”なのです!毎回「次回をお楽しみに~♪」と終わるのでした。この日、読んでいると・・・Oさんのパッと見開いた瞳から一筋の涙がこぼれ落ちます。涙は多くを語り、読みながら込み上げるものがあります。自分でお話が出来ず、体も自由に動かせない、私たちには想像がつかない日々を過ごしているOさんです。そんな中でも、共に生きている限りある、Oさんとの尊い時です。私は病院で働いている時、このような多くの心あたたまる経験があり、困難を乗り越えてきたことを思い出します。そして人は、どのような状態であっても、助け合って生きている事を知ります。皆さま、いつもありがとうございます。