ケース1 母として…Tさん 50代 女性
先日、50代のTさんがおなくなりになりました。
毎日ケアが必要な病状で、スタッフ3人で関わらせて戴きましたが、ご年齢が近いこともあり、まだお子様も小さく、Tさんの人生の貴重な時間を考え、話し合うこともよくありました。Tさんはどんな時も、美しく、元気に、、、、と強い意志で過ごしておられ、はっきりと貫いていくお姿に、いつも頭が下がる想いでした。
ある時、スタッフの提案により、お子様へのメッセージを、いろいろなテーマでボイスレコーダーに録音していったらどうか、ということになり、Tさんのご希望で、ご家族のいない時に録音を始めました。お子様を想う母の心を感じるやさしいメッセージは、残念ながら僅かしか録音することが出来ず、間もなくTさんは、話をしにくい状態になりました。
「まだ私は大丈夫、元気です。」と、頑張ってきたTさんでしたが、急な病状の進行に、“病院に行くか、家で最期を迎えるかを決断しなければならない”ことを、医師から告げられた時、静かにはっきりと、「家で。 私はここにいます。」とおっしゃったのです。
Tさんの旅立ちの時は、交代で付き添い、最期はご家族、お子様と、スタッフ3人で、静かにおだやかな時をすごし、お送りすることができました。Tさんのお顔は清く美しく、やさしい空間に包まれるように過ごす時間は、この上なく尊い時でした。ご家族が、母親の死に直面することを心配していたお子様も、悲しみはあっても、お母様の経過を、あるがままに受けとめていたように感じます。
ケース2 「家で死ぬ」と決意したSさん 90代 男性
Sさんは、心臓病をわずらい、重症といわれる状態でしたが、「入院はしない、家で死ぬ。」という選択をされ、ご高齢の奥様を中心に、ご家族が頑張って介護をされました。最期は、二人のお子さん、そしてお孫さん、ひ孫さんと大勢のご家族に囲まれる中、大切なときを一緒に過ごさせて戴きました。Sさんの呼吸が弱まり、毎日お世話をするために遠方から通っておられた娘さんの到着を、みんなで今か
今かと待ちました。Sさんは、全員揃われてから静かに旅立たれました。お顔はとても神々しく、ご家族の大きな「ありがとう」の声は、私の胸にも響きわたりました。人の死に目に遭ったことがない、という方が多い中、こうしてお一人でも温かい空気に包まれ看とられる方が増えれば・・・死が、これまでのように恐怖や悲しみとしてあるのではなく、故人とも一緒に生きるはじまりとして、人に受け入れられるようになるのでは、と感じています。